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私の話、貴方の話、セレクトショップ的な話、恋の話、夢の話、懐かしい話、カレーの話、府中の話、或いはニッチな日記。


by bb_sele
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店主の恋愛小説 第17話

昨日、俺は逃出した。
本当を知るのが怖くて。
現実を知るのが怖くて。
誰だってそうかもしれない。
真実は人を傷つける・・・

昨日も来たこの病院に忍び込む様に入っていき、美里の病室の前で立ち止まった。
廻りを伺う。
誰も居ない。足音もしない。
ドアをこっそり開け、速やかに中に入り、ドアを閉める。

そこには昨日と変わらない美里がいた。
・・・眠っているみたいだ・・・
失くなった脚、巻かれた包帯、消毒液の匂い、真っ白なシーツ。
全てが痛々しくて見ていられない。

俺は美里にそっと近付き、壊れない様に美里の頬を撫でた。
そして、傷付かない様に美里のおでこを触った。
汚れない様に美里の手を握った。
離れない様に美里と腕を組んだ。
忘れない様に優しくキスをした。
美里の頬が俺の涙で濡れて、泣いているみたい。

時間が時間を追い越して行く。美里の時間は止まったままだ・・・あの事故の日から。
でも本当は動いているのかもしれない。だけど見えるものしか信じられない俺には時針すら見えない。
こんな時に限って、美里の優しい移り香が胸を焦がす。
こんな時に限って、繋いだ手の温もりを思い出す。
 このまま離れてしまえば、きっと忘れてしまう。二人で過ごした春も夏も秋も冬も・・・
思い出すのは事故の結末だけで。
美里の全てを忘れないように、心の印画紙に焼き付けて、忘れない為に罪を刻み、忘れない為に罰を受ける。

ポケットに忍ばせていたナイフを取り出し、俺は強く握った

時の河に流されたくない・・・・
by bb_sele | 2007-03-02 19:55 | Web小説